松の内が明けてすぐの土曜日、能の稽古を見る初めての機会に恵まれました。
今回の見学は、吾潟にある「本間家能舞台」を取材した際、大変お世話になった神主(こうず)弌二さんのお誘いに甘えたもの。
神主さんは、佐渡宝生流の太夫家・本間家を支援する主旨で明治期に設立された「佐渡能楽倶楽部」の会長を務める、佐渡能楽の重鎮。さらに言えば、能楽の保存・普及のために「佐渡中等教育学校」のスクール・カルチャーで講座をもっています。


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雪の舞い散る午前9時。2人の女子中学生がやってきました。稽古場は、神主さんのご自宅にある15畳の和室。能の稽古というと、さぞや厳しいものと想像していたのですが、神主さんと女生徒たちは、まずはお茶を飲みながら和気あいあい。「佐渡中央教育学校」の生徒だという2人に「神主先生は厳しい?」と問い掛けてみると「ぜ~んぜん」と屈託のない笑顔で答えてくれました。
稽古演目は『小さい袖曽我』。2月7日に学校で開かれる発表会で、お披露目する予定のものです。
正座をして、一礼してから稽古開始。お手製の稽古本を手にしながら、「はい、そこで右足掛けて」「行って3足7足だからね」「扇の手が高いよ」。冷え冷えとした稽古場に響く、神主さんの声。謡で鍛えられた朗々とした声音を聞いていると、背筋がピシッ伸びてきます。
しかし、およそ30分ほどの稽古を終えると、またまた茶飲み話で盛り上がります。3人を見ていると、失礼ですが、好々爺と素直なお孫さんといった趣です。


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すでにの“お弟子さん”も訪れています。こちらも「佐渡中等教育学校」の4年生の女生徒。
稽古する演目は、仕舞(囃子を伴わない舞)『羽衣のキリ』です。「今度、舞って(きちんと能面・装束を着けて舞うという意味だそうです)みないか?」と神主さんが提案しているところをみると、かなりの舞達者なのでは。そしてその予想通り、素人目から見ても所作、仕草が柔らかく、極めて女性的な動きで惹きつけられました。


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最後のお弟子さんは、佐渡総合高校1年生の女子高校生です。こちらの演目も仕舞で『嵐山』。「右半身になって」「そこで手を反して」。前の2組同様、真剣な面持ちで神主さんの指導を受けていました。
4人の稽古を終えたのは、昼前。雪を降らせた曇天の合間から、うっすらと陽が差し込みはじめています。神主さんの表情にはさすがに疲れが見えますが、どこか充実感にも満ちていました。


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稽古を見学していてなによりうれしかったのは、これほど若い人達が能に興味をもち、学び、そしておそらくは受け継いでいくであろうという事。これも佐渡の人々の間に、脈々と伝わるDNAのなせる業なのかも知れません。
神主さん曰く「能は、50年やっても終わりというものがない」。まだまだ傍観者の自分には到底知ることのできない、能の、そして佐渡の奥深さ。その一端に、わずかながらも触れられた1日でした。